東京高等裁判所 昭和28年(う)3959号 判決
被告人 生駒岩吉
〔抄 録〕
論旨第二点。
被告人の自白のみによつて犯罪事実を認定することの許されないことは洵に所論のとおりであるが、自白を補強するに必要な証拠は必ずしも犯罪事実全般に亘る必要はなくその自白が真実であることを裏付けることができる程度のもの、換言せば自白した事実の客観的存在を認め得るものであつてしかもそれが直接証拠たると間接証拠たるとを問わないものと解するのが相当である。ところで本件における原判示第一の犯罪事実は、刑法第二百四十条に該当する強盗殺人の所為であつて併合罪の関係にある強盗と殺人の各所為ではないのであるから、たとえ、強盗の点についての証拠が被告人の自白以外にないとしても前記趣旨における補強証拠が殺人の点との関連において存すればそれをもつて足りる筋合であるのみならず、本件においては原判決挙示の証拠中原審証人元山茂同佐藤龍の証言その他の証拠によれば、被害者佐藤健吉は当日七万余円をもつて自宅を立ち出て二三の買物をして後犯行現場附近に赴いたことが明らかであつてこれによつて犯行現場においても未だ少くとも七万円を越す金員を所持していたものと推認される事実が窺われるのであつて、この証拠は他に反対の事情を認めるべき確証の存しない本件では殺害者が同一機会に右金員を強取したと認むるに足りる補強証拠となすに些かも支障のないものと考えられるから、この点に関し原判決は所論のような刑事訴訟法第三百十九条第二項、憲法第三十八条第三項に違反するものということはできない。又殺人の点について被告人の自白以外は殆んど情況証拠であること所論のとおりであるけれども、前に述べたように、この点についても何等違法の廉はないのであり、又所論の点について鑑定の方法による証拠を採用しないからといつてこれ又原審の措置が違法ということにはならない。記録に徴するも原審の審理は詳細に亘つて完全になされており審理不尽をもつて目すべきものもない。これを要するに原判決には証拠調並びに採証の点等につき何らの法令違背は認められないから、論旨は理由がない。